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純銀と手作業にこだわる英国筆記具「ヤード・オ・レッド」

「ヤード・オ・レッド」は職人の手作りにこだわった純銀製のペンシルで有名な、現在も続く英国の筆記具ブランドです。
少し変わった名前ですが、この名にはブランドの原点と、筆記具に込められた職人たちの想いが深く刻まれています。

この記事では「ヤード・オ・レッド」の歴史とその製品の特徴について説明いたします。


1.サンプソン・モーダンとの関係性

ヤード・オ・レッドの物語は、19世紀初頭に活躍した一人の銀細工職人、サンプソン・モーダンから始まります 。   

モーダンは若い頃有名な発明家であるジョセフ・ブラマーに弟子入りし、1822年に世界初の繰り出し式ペンシル「エバーポインテッド」の共同発明者として特許を取得しました 。
「繰り出し式ペンシル」とは、芯を本体に内蔵し必要に応じて繰り出して使うことができる筆記具のことで、日本では「シャープペンシル」と呼ばるものです。
それまでのペンシルは、芯が短くなると削る必要がありましたが、繰り出し式ペンシルは芯を補充するだけで使えるため、非常に画期的な発明でした。

その後、モーダンとその子孫はこの特許を使ったペンシルを中心に、カードケースや郵便秤など発明家らしい実用的な機構を持つ製品を製造していました。
しかし、モーダンの会社は第二次世界大戦のロンドン大空襲で工場が爆破されたことでに事業を停止してしまい、彼の発明の権利は後にエドワード・ベイカー社に引き継がれます 。
このことが後のヤード・オ・レッドの誕生に深く関わってきます。 

ヤード・オ・レッドの公式サイトなどでは、「1822年創業」と謳われていることがありますが、これは会社自体の設立年ではなく、モーダンの発明の系譜を継承していることを意味しています 。つまり、ヤード・オ・レッドは、モーダンの革新的な精神と技術を受け継ぎ、それを現代に伝えているブランドなのです。  

(サンプソン・モーダンの製品) 

  


2.会社設立から現在までの歴史

20世紀初頭、ドイツの宝飾品産業の中心地であったプフォルツハイムから、一人の金銀細工職人、ルートヴィヒ・ブレンナーがロンドンに移住します 。彼は、故郷で培った職人技を胸に、ロンドンで自身の名を確立する画期的な筆記具を生み出しました。   

それが、12本の3インチ(約7.5cm)、つまり合計で36インチ、すなわち1ヤード分の芯を内部に保持できる繰り出し式ペンシルでした 。このユニークな大容量機構は、1934年に特許を取得します。
これがヤード・オ・レッド(Yard-o-led)の名前の由来です。

そして同年、ブレンナーはフランク・タフネルJr.と提携し、ロンドンで正式にヤード・オ・レッド・ペンシル・カンパニーを設立しました 。   
フランク・タフネルJrの父親がサンプソン・モーダン社で働いていたことから、サンプソン・モーダン社との関係性ができたようです。

第二次世界大戦中のロンドン大空襲では、ブレンナーとモーダンの工場が共に破壊されるという悲劇に見舞われます 。  
サンプソン・モーダン社はその後事業を停止しその特許などはエドワードベイカー社に引き継がれますが、ヤード・オ・レッドは生き残ります 。

1950年代には、フランク・タフネルJr.が会社の過半数の株式を取得し、さらにエドワード・ベイカー社を買収 。これにより、モーダンの伝説的な特許がヤード・オ・レッドの傘下に収まり、英国の重要なペンシル製造の遺産が統合されることになったのです 。   

1970年代にはペンシルだけでなく、ボールペンや万年筆など新たな筆記具の開発にも力を入れるようになりました 。   
また、純銀製だけでなくロールドゴールド(金張り)や合金製のものなどいろいろな素材の筆記具も造られるようになります。

(この時代のヤード・オ・レッドの筆記具)

 

1988年、ヤード・オ・レッドはパーソナル・オーガナイザーやシステム手帳などで有名なファイロファックス・グループに買収されます 。
買収後も創業家のティム・タフネルがマネージング・ディレクターとして留任し、ブランドの継続性が重視されています。
この買収により、ファイロファックスの顧客層にヤード・オ・レッドを紹介することで、ペン愛好家以外への認知度が高まっていきました。

2015年、ヤード・オ・レッドは、インペリアル・ヤード・リミテッドによって買収されます。
新しいオーナーは英国の時計ブランド「ブレモン」の創業者であるイングリッシュ兄弟で、彼らはブレモンで高級英国製造ブランドを構築した経験を活かし、ヤード・オ・レッドを高級市場でより積極的に位置づける戦略を取っています。
そのため、現在のヤード・オ・レッドの筆記具のラインナップは、それ以前のものに比べるとかなり高価格帯のものが中心となっています。

 

3.ヤード・オ・レッドの筆記具の特徴

ヤード・オ・レッドの筆記具の最大の特徴は、何と言ってもその素材と、職人による手仕事へのこだわりです。

ヤード・オ・レッドの筆記具の本体には、主に高品質な925スターリングシルバーが使用されています 。スターリングシルバーとは、銀の含有率が92.5%の銀合金のことで、美しい輝きと耐久性を兼ね備えているのが特徴です。  
1970年代以降は金張りや合金、樹脂製の筆記具も製造されていますが、それでもスターリングシルバー製の筆記具が中心であることは変わりません。 

また、1970年代以降はボールペンや万年筆も製造していますが、このブランドを代表するのはやはり「繰り出し式ペンシル」です。
現在のシャープペンシルはノック式で0.5mmなど細い芯のものが多いですが、ヤード・オ・レッドのペンシルはペン軸を回転させることで、1.18mmの太めの芯を出し入れする機構となっています。

ヤード・オ・レッドの筆記具は、スターリングシルバーのチューブから作られます 。チューブは切断され、「スウェージング」と呼ばれる工程で形作られます 。その後、鍛造、成形、手作業による研磨(伝統的な研磨材を使用 )、そして慎重な組み立てが行われます 。   

製造工程では、「ハンドメイド」という言葉が頻繁に使われますが 、実際には、熟練した手作業(チェイシング、研磨、組み立て)と伝統的な機械(スウェージング、ギョーシェ彫刻など)の組み合わせで造られています。  
これは、完全に手作業で鍛造されるのではなく、産業革命時代の職人技術と手仕上げが融合したものです。


まとめ

ヤード・オ・レッドは、1822年のサンプソン・モーダンの繰り出し式ペンシルの発明にルーツを持つ、英国の老舗筆記具ブランドです 。   

その筆記具は、スターリングシルバーを素材とし、職人による手仕事と伝統的な技術によって作られています 。特に、ハンド・チェイシングによる精緻な装飾は、ヤード・オ・レッドの大きな魅力の一つです 。   

手仕事にこだわっているため生産数が少なく、モンブランやパーカーなどの有名筆記具ブランドと比べると知名度は低く「知る人ぞ知る」ブランドですが、ヤード・オ・レッドの筆記具は単なる筆記具ではなく、英国の職人技の粋を集めた芸術品ともいえるものです。

SILVER-LUGでは英国の銀製品を中心に取り扱っていることもあり、ヤード・オ・レッドの筆記具を多く取り扱っています。



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