サイドバーを表示
英国のロイヤルワラント(王室御用達)

英国には英国王室に商品やサービスを提供する企業や組織に授与される「ロイヤルワラント(王室御用達)」という制度があります。
日本にも、皇室御用達、宮内庁御用達といった制度がありましたが、1954年に廃止されてしまいました。

15世紀から現在も続く制度で、英国アンティークについて調べていると「ロイヤルワラント(王室御用達)」の表記を見かけることがよくあります。
この記事では英国のロイヤルワラントの内容やその歴史、代表的なメーカーなどについて解説してまいります。


1.ロイヤルワラントとは?

ロイヤルワラント(Royal Warrant)とは、イギリスの王室に商品やサービスを供給する業者に与えられる非常に名誉ある称号です。
これは単なる商標のようなものではなく、その業者、そしてその製品やサービスが高い品質と信頼性を持ち、王室によって公認されていることを意味します。
この称号を得ることは、イギリス国内の企業にとって最高の栄誉とされており、製品や店舗には、誇りを持って王室の紋章を掲げることが許されます。
例えばロンドン市内を歩いていると、老舗の百貨店やテーラーの店先に、ひっそりと、しかし堂々と王室の紋章が掲げられているのを見かけることがあります。


(ビクトリア女王時代のロイヤルワラントの紋章バッジ)

この称号が付与されるには、非常に厳格な基準があります。
まず授与を希望する企業は、最低でも過去5年間にわたり継続的に王室へ商品やサービスを提供している実績がなければなりません。
その品質は常に最高水準である必要があり、単に一度きりの供給では認められません。さらに品質だけでなく、倫理的な事業運営、従業員の福利厚生、そして環境への配慮といった点も厳しく審査されます。
例えば、持続可能な調達を実践しているか、フェアトレードに取り組んでいるかなど、現代の社会が求める企業としての責任も問われます。
これらの多角的な審査をクリアして初めて、王室から「王室御用達」として認められるのです。

ロイヤルワラントは、企業がその製品やサービスの質に絶対的な自信を持っていること、そして社会的な責任も果たしていることの証となります。
そのため、ロイヤルワラントが付与された品々は、単に美しいだけでなくその背景にある確かな品質と信頼性を兼ね備えていると言えるでしょう。
これは、アンティーク品を選ぶ上でも重要な判断基準の一つとなります。
古い時代に作られたものであっても、ロイヤルワラントを持っていた企業が手掛けた品であれば、その品質は折り紙付きだと考えて差し支えありません。

  

2.ロイヤルワラントの歴史

英国のロイヤルワラントの起源は中世にまで遡ります。
当時の君主たちは、自分たちの宮廷生活を支えるために必要な物資やサービスを供給する業者を選定し、彼らに独占的な権利や税の免除といった特権を与えていました。これが、現代のロイヤルワラントの原型となります。
例えば、肉屋、パン屋、仕立屋など、宮廷の日常を支える様々な職人たちが、国王直属の業者として重用されていました。

現存する最も古いロイヤルワラントの記録は、15世紀のヘンリー6世の時代に王室の理髪師に王室御用達の公認が与えられたというものです。
当時の王室がいかに日常生活の細部にまで気を配っていたかを示す事例です。
現在のロイヤルワラントの制度に近い形になったのは、18世紀のジョージ3世の時代からと言われています。
この頃から、王室に品物を納める業者に「By Royal Appointment」といった形式で王室御用達を示す表示が許されるようになりました。
これにより、一般の人々もどの業者が王室に認められているのかを一目で判別できるようになり、それが一種のブランド力を生み出すことになります。

19世紀に入り、ヴィクトリア女王の治世下では産業革命の進展とともに多くの企業が発展し、市場経済が大きく拡大しました。
この時代には王室が国民的繁栄の象徴と見なされるようになり、王室御用達の称号は企業にとって非常に大きな宣伝効果をもたらすようになります。
そのため、ロイヤルワラントの授与が本格化し、多くの企業がロイヤルワラントを取得しその製品が世界的に広く知られるようになりました。
「世界の工場」と呼ばれた当時の英国製品のブランド価値を上げるため、ヴィクトリア女王時代にはロイヤルワラントの授与数が急増しています。
ヴィクトリア女王の配偶者であるアルバート公によるものも含め、2000件以上のロイヤルワラントが授与されています。

現代のロイヤルワラントは、国王であるチャールズ3世と国王の配偶者(カミラ王妃)のいずれかによって授与されます。
2025年からウィリアム王子も勅許状を発布する予定だそうです。
これらの王族は、それぞれが個人的に使用する物品やサービスについて、独自の判断でロイヤルワラントを授与する権限を持っています。

王族が交代すると、それまで授与されていたロイヤルワラントは自動的に失効しますが、猶予期間が設けられています。
例えば、故エリザベス2世女王が授与したロイヤルワラントは、女王の崩御後も最長5年間は有効とされ、その間に新たな国王からの再承認を得る必要があります。
この制度により、ロイヤルワラントは常に最新の王室の承認を得た、信頼性の高い証として機能しています。
この厳格な更新制度は、ロイヤルワラントの権威と価値を保ち続ける上で不可欠な要素となっています。

 

3.代表的なロイヤルワラントの会社

ロイヤルワラントを持つ企業は多岐にわたり、食品、衣料品、自動車、食器など、ありとあらゆる分野に存在します。

ヴィクトリア女王時代(1837年~1901年)は大英帝国の絶頂期であり、多くの優れた職人や企業がその腕を競い合いました。
王室の権威が高まるにつれて、ロイヤルワラントは企業にとって非常に重要な名声の証となり、品質と信頼性の象徴として確立されました。

たくさんあるロイヤルワラントを授与された会社から、ヴィクトリア女王時代に活躍し英国アンティークの世界でも名高い、代表的なものをご紹介します。

ガラード(Garrard)

1735年創業のガラードは、イギリスを代表する老舗の宝飾店であり銀製品の製造でも高い名声を得ていました。
ガラードは単なるロイヤルワラントのひとつではありません。
1843年にガラードは英国王室が所有する宝飾品の中でも特に重要な「クラウン・ジュエルズ(Crown Jewels)」の制作、管理、メンテナンス、そして戴冠式などの重要な儀式のための準備を担う「クラウンジュエラー」に任命されています。
2007年までの164年という長きにわたって、歴代の王室の戴冠宝器の多くを制作・管理する役割を担っていました。

マッピン&ウェッブ(Mappin & Webb)

1775年に銀食器のアトリエとして創業したマッピン&ウェッブも、ヴィクトリア女王時代に大きな発展を遂げたブランドです。
1897年にはヴィクトリア女王から銀製品ブランドとしてははじめてロイヤルワラントを授与され、世界中の王室から委託や御用達の任命を受けています。
その優れた品質は英国を代表するものとなり、銀食器の他にもジュエリーや時計なども手掛けるようになっています。

J.W. ベンソン(J.W. Benson)

J.W. ベンソンは、19世紀中頃から20世紀前半にかけて栄えたイギリスの時計メーカーです。
ベンソンは自社でムーブメントを製造するだけでなく、スイスの優れたムーブメントを採用して独自のケースに収めることもありました。
アンティークのJ.W. ベンソンの懐中時計は、その歴史と英国王室との繋がりから、コレクターの間で人気があります。

ウェッジウッド(Wedgwood)

ウェッジウッドは1759年創業との古い歴史を持つ陶磁器ブランドですが、ヴィクトリア女王の時代にもその製品は王室に愛用されていました。
特に有名な「ジャスパーウェア」は、ヴィクトリア朝のクラシックリバイバル(古典主義の再興)の潮流にも合致し、多くの人々に愛されました。
ウェッジウッドは、常に革新的な技術とデザインを取り入れながら、高い品質を維持し続けたことで、長きにわたり王室御用達としての地位を確立しています。

ミントン(Mintons)

ミントンは1793年にトーマス・ミントンによって創業された、イギリスを代表する陶磁器メーカーです。
その優れた技術と芸術性は早くから評価され、1856年にはヴィクトリア女王からロイヤルワラントを授与されました。
ヴィクトリア女王は、外交上の贈り物としてもミントンの陶器を自信を持って選んだとされており、その品質の高さがうかがえます。

ロイヤル・クラウン・ダービー(Royal Crown Derby)

1750年頃に創業し、1775年にはジョージ3世から「クラウン」の称号、さらに1890年にはヴィクトリア女王から「ロイヤル」の称号を授与され、「ロイヤル」と「クラウン」という二つの王室の称号を冠する唯一の陶磁器メーカーです。
「ロイヤル」や「クラウン」の称号はロイヤルワラントとはまた別で、企業・組織自体が「王室の」という名誉ある冠を名乗る許可を永続的に与える称号です。
その企業が、イギリスの国家的な遺産や象徴の一部として認められたことを意味する、ロイヤルワラントよりも更に名誉のある称号です。

 

まとめ

ロイヤルワラントは、単なるブランドステータスに留まらず、その製品やサービスが持つ高い品質、信頼性、そして伝統の証です。
それは、イギリス王室という世界で最も長い歴史を持つ王室の一つが、その品物の価値と卓越性を認めたという何よりも確かな証拠だからです。

英国アンティークを知るうえで、ロイヤルワラントは関係の深いテーマのひとつでもあります。
そのメーカーがどのような背景を持つか、王室メンバーがどのように愛用したかといった歴史や物語を知ることで、メーカーやアンてティーク品への理解が深まるでしょう。



タグ:

シェア:

コメントを書く

コメントは公開前に承認される必要があることにご注意ください。